『ウルトラQ』誕生前夜!『WOO』とオプチカル・プリンターと【2019年10月更新】

スポンサードリンク

日本初の本格SF特撮ドラマ『ウルトラQ』

それまでの特撮テレビ作品との大きな違いは、映像のクオリティとスケール感にあります。

決して以前の作品が大きく劣っているという話ではありませんが、『ウルトラQ』は文字通り映画並みのクオリティを実現しています。

しかし、その完成度が実現したきっかけが、誕生前夜の意外な事件にあることは、特撮ファンしか知らない事実です。

 

今回はそんな『ウルトラQ』誕生前夜の大事件にして、その完成度を飛躍的に高めるきっかけともなった「オプチカル・プリンター事件」を紐解いていきます。

※2019年10月更新:文章の整理、説明が不足していた部分の追記、一部内容の修正を行いました。

スポンサードリンク

円谷英二と子どもたち

1960年代、ゴジラで知られた円谷英二「円谷特技プロダクション」を設立します。

 

特技は映像撮影の特殊技術、つまり特撮のことを指します。

ゴジラの円谷肝いりの特撮プロダクションというわけですね。

更に、同時に特技(特撮)研究も行っていました。

 

円谷英二は当時の映画人としては珍しく、子どもたちをテレビ局に就職させていました。

新興事業であるテレビは海の物とも山の物ともつかないとして、映像業界の先輩格に当たる映画界からは脱兎のごとく嫌われていたのです。

後にこの関係が逆転することを考えると、円谷英二の清眼が光る話と言えるでしょう。

 

そんな円谷英二の子どもたちの一人、フジテレビに就職していた円谷皐(つぶらや のぼる)が円谷特技プロダクションに1件の仕事を持ち込みました。

 

その番組のタイトルは『WOO』

スポンサードリンク

ウルトラQ』の前に『WOO』あり

『WOO』は不定形の宇宙人・WOOを主役とし、地球を離れられなくなったWOOが人類に力を貸し、怪獣たちと大立ち回りを繰り広げる企画でした。

後の『ウルトラマン』とよく似た部分を多く持っていますね

 

この類似性からか、一部の資料で『WOO』を「『ウルトラマン』の没企画」と紹介しているものもあるようですが、これは間違いです。

 

あくまでもアイデアが後になって転用されたにとどまっています。「『ウルトラマン』の源流」という意味でなら間違ってはいませんが、筆者の知る限りウルトラマンの企画段階でWOOの名称が使用されたという話は聞いたことがありません。

 

そんなエポックメイキングな作品になり得た『WOO』はフジテレビの都合により制作がキャンセルされてしまいます。

これにほとほと困り果ててしまった円谷英二

 

なぜなら、円谷英二は『WOO』に投入するための空前絶後の秘密兵器を海外に発注してしまっていたからです。

スポンサードリンク

時価4000万円の秘密兵器「オプチカル・プリンター1200シリーズ」

その秘密兵器とは、オックスベリー社の「オプチカル・プリンター1200シリーズ」です。

 

オプチカル・プリンターとは、主に光学合成に使用する機材

光学合成とは複数のフィルムやフィルムと合成用素材を掛け合わせる特撮技法の一つで、これを使えばフェードイン・フェードアウトから人が巨大怪獣に向けて光線銃をぶっ放すシーンまで合成可能という映像制作に欠かせない機材でした。

意外と知られていないことですが、フェードインやフェードアウトも特撮の一つです。

特撮はあくまでも特殊な撮影を指す言葉であり、ヒーローや怪獣が出てくるような映像はあくまでも特撮が映える場面でしかありません。

何の気無しに見ているドラマやCMも、ふんだんに特撮が使用されていたりするのです。

 

オプチカルプリンターは特撮を実現させるだけでなく、無地のフィルムに完成品を掛け合わせてフィルムをコピーし焼き増す事にも使用されていました。

フィルムは焼き増さないと複数の劇場で同時に上映することができないため、オプチカルプリンターと映画は深い関係で結ばれていると言えるでしょう。

 

さて、今回話題の1200シリーズは世界初の4ヘッド合成機として生み出されました。

円谷英二が購入した時点では世界に2つしか無い最新の代物だったことを考えると、いかに先進的な製品だったかがわかります。

 

ヘッドはフィルムをかける箇所を指し、これが多ければ同時に掛け合わせられるフィルムの数が多くなります。

つまり、1200シリーズは複雑な合成を一度にこなせる、世界で一番高度な特撮機材だったわけです。

 

オックスベリー社はゴジラで有名な世界のツブラヤが直々に購入したのだからとこれを速攻納品しました。

元々は米国国防省に納品される予定だったと言うからツブラヤの威光たるや凄まじいものがあったとわかりますが、問題は購入資金です。

スポンサードリンク

1200シリーズはTBSへ

当初、円谷英二は手付金の500万円を『WOO』の制作費で賄おうとしていました。

当然、キャンセルとなれば制作費など入りようがありません

 

そのため、購入をやめると円谷はオックスベリー社に連絡をするも、すでに1200シリーズは納品のために船便で輸送中

止める手立てがないと来ました。

 

円谷英二は、最終的に息子の一人、円谷一を頼ることとなります。

円谷一TBSの社員であり、新進気鋭の演出家として名を馳せていました。

 

一の持ち帰った案件を社内検討したTBSは、自社で1200シリーズを購入し、円谷特技プロダクションに1200シリーズを使用した特撮番組の制作を依頼することとします。

この時、円谷プロとTBSの間では特撮ドラマの制作企画が持ち上がっていました。

代理購入は、この企画を前提として成立したものだったわけです。

 

企画名は『UNBALANCE』

後に大ヒットを飛ばす、『ウルトラQ』の初期名称です。

こうして、特撮に置いて最強の武器を手に入れた円谷プロとTBSの腐心によって、映画とも張り合えるレベルの作品が完成していく事となりました。

スポンサードリンク

その後の1200シリーズ

こうして『ウルトラQ』誕生へと繋がった「オプチカル・プリンター1200シリーズ」。

さて、無事『ウルトラQ』が成功して以降はどうなったのでしょうか?

 

「1200シリーズ」は先述のように購入を肩代わりしたTBSが所有していました。より正確に言えば、その子会社に当たる番組制作会社「TBS映画社」に所有権が与えられました

 

円谷特技プロダクション(『ウルトラQ』製作中に円谷プロに改称)は、あくまで「TBS映画社」のオプチカルプリンターを使わせてもらっているという立場です。

「TBS映画社」はオプチカルプリンターを各社に貸し出しました。

最高クラスの映像を求める映像業界各社にとって、世界最強の映像機器がレンタル可能というのは非常に魅力的な話なのは想像に難くないですよね。

 

CMや各映画社の作品、そしてテレビ番組の制作にも多用された1200シリーズは、最盛期には月6000万を稼ぎ出したと言われています。

結果的に、TBSは「1200シリーズ」購入の肩代わりで莫大な利益を得たのです。

 

もちろん、ウルトラシリーズでも獅子奮迅の活躍を見せ、1980年の『ウルトラマン80』まで連綿と使用されました。

まさに縁の下の力持ちとして映像業界を支え続けた1200シリーズでしたが、90年代に入るとCGの台頭により使用の機会が減り、静かに引退を迎えたとのことです。

 

また、没となった『WOO』21世紀に入りついに制作が実現します。

当初のアイデアを最大限に活かした巨大特撮モノとして制作され、知る人ぞ知る名作として語り継がれています。

こちらも機会があればぜひチェックしてみてください。

 

参考文献:『ウルトラQ伝説―日本初の空想特撮シリーズの最終資料』ヤマダ・マサミ著 アスペクト刊

コメント

タイトルとURLをコピーしました