2017年、特撮マニア界を大いに騒がせる情報が日本を駆け巡りました。それが、『東宝円谷プロ効果音大全集(仮)』の発売告知です。
文字通り、東宝が制作した映画や円谷プロが制作した番組で使用された効果音が多数収録されるとのことで、個人的に非常に気になる一枚です。
2017年末には新たなライブラリ音声の発掘に伴い編集作業が困難を極めているとの情報も入り、作業が進行していることが伺えます。
※2019年9月更新:内容の修正を兼ねた更新を行いました。
初報から2年たった現在も発売まで至っていませんが、現時点でも筆者は待っています。
それは2017年3月25日のことだった
本CDの発売が告知されたのは『シン・ゴジラ』のセルソフトが発売された際に封入されていたチラシでした。筆者は金銭的な問題から買えなかったのですが、友人から『シン・ゴジラ』ブルーレイの素晴らしさを伝えるLINEをもらった際、不意に発売を教えてもらいました。
その瞬間にどれだけ血が滾ったかは、ブルーレイの発売日でもない情報を入手した日を明確に覚えていたことから察してください。
効果音ライブラリの利用方法が巧みだった『シン・ゴジラ』に告知が入っていたことが、私の興奮度合いを更に高めました。
シン・ゴジラの憎い演出が蘇った
ここでは効果音の歴史とともに少しだけ『シン・ゴジラ』の効果音の使い方の素晴らしさに触れましょう。
一般に効果音として利用される音源は、ライブラリ化と更新を繰り返して進化しています。
戦前にトーキー(セリフ・音声つき映画)が始まって以降、各社は映画に合わせた効果音を作成、収録し、使えるものは再利用しつつ場面に合わせた新しい音を作成して行きました。
ライブラリが充実するとともに使用される音源が洗練され、新たに作り起こした音に置き換えられる効果音も増えていきます。
モノラルから始まった映画音声も、時代が下るに従ってステレオ化、サラウンドシステムや再生機・スピーカーの性能変化、デジタル音源化によるノイズの低減などが進みました。
それに応じ、時代ごとに使いやすい音、使いにくい音というものも変化していクのは自然のことと言えるでしょう。
収録方法も様々な道具を使った生音から現実の兵器の砲撃音、各種電子機器を利用してシンセサイザーの音作りのように無から生み出されるものまで様々です。
『シン・ゴジラ』序盤の序盤ハイファイな効果音の中に懐かしい効果音が絶妙に混ぜ込まれており、終盤までは「上手いな」という感想が率直なところでした。
絶対聞きたい効果音は「誰もが聞いた爆発音」
その「感想」が「感動」に変わり、本当に泣いたのが映画の終盤でした。
映画終盤、最終作戦に突入した瞬間に爆発音が「昔の効果音」メインに変わるのです。
子どもの頃から慣れ親しんだ「いつもの音」とでも言うべき効果音でした。
どこか大人の視点で見ていた「上手い映画」が、子どもの頃から慣れ親しんだ「ただ面白い映画」に変化した時、私は泣いていました。
これだよこれ!と膝を打つように、特撮の思い出の数々が顔を覗かせたのでしょう。
泣く場面ではないことはわかっていたのですが、ただただ感涙に胸が一杯になったことは確かに覚えています。
画面で展開されるドラマや作戦といったものよりは、怪獣映画の「聞き所」をスタッフと共有できることに対する感動。
CDでまず最初にチェックしたいのはこの「爆発音」です。
「ドカン!」というよりは「ダーン!」というほうがよりイメージしやすいでしょうか。
派手さが目立つため、巨大感を演出するのには適していましたが、派手すぎると視聴者に指摘されることも多い音だったようです。
世代によって印章は変わるのでしょうが、『ゴジラ』や『ウルトラマン』の戦闘シーン、破壊シーンの音を思い浮かべれば、そこで鳴っている爆発音が十中八九これです。
もちろん、『シン・ゴジラ』のクライマックスを思い浮かべられれば確実でしょう。
この音は東宝特撮以外でも多用され、それこそウルトラシリーズであれば毎週何度もこの音が響いていました。
世の中様々な音があれど、筆者がこの音以上に聞いた音はないでしょう。
再放送で、ビデオで、DVDでBDでウルトラシリーズを1話見るたびに、数回のペースで聞いた回数が増えていくのですから。
この音一つで感情が動くくらい聴き込んだ音です。
爆発そのものは特撮の専売特許ではないため、この音は他の系統の作品でも爆発シーンに使用されています。
中には洋画の日本語吹き替え版を制作した際、より派手な爆発音を求めてこの音声を流用したこともあったとか。
吹き替えに用いる事ができるMEトラック(音楽と効果音のみ、つまり声だけ入っていない音声)がある作品もありますが、そもそもMEトラックが用意されていない作品ではBGM、効果音なども吹き替え制作スタッフが準備することとなります。
MEトラックがあっても使用されない作品などもありますが、その場合も効果音はやはり吹き替え制作スタッフの手腕に委ねられますね。
作品によってはBGMが別の作品のものに差し替えられて問題になったりしたこともありますが、これはまた別のお話ですね。
東宝やその直系に近かった円谷プロ以外にも、ライブラリとして提供されていたことが伺えます。
効果音よもやま話:ウルトラマンの声
さて、効果音といえばウルトラマンの声も印象的です。今回は東宝のみならず円谷プロの効果音も収録されるとのことですが、ウルトラマンの声は中曽根雅夫氏のアフレコ音声をライブラリ化したものであるため、収録は難しいのではないかと個人的に考えています。
氏は1話のアフレコ(ウルトラシリーズは長らくオールアフレコで制作された)に遅刻し、ウルトラマンのセリフは編集の近藤久が務めることになりましたが、掛け声の収録時にはより効果的なエコーを求めてピアノの中に頭を突っ込んで収録するなど、未曾有のヒーロー像構築に腐心しました。
晴れて33話のメフィラス星人との掛け合いでセリフを演じることも叶いましたが、39話では1話との対比も考慮されてか、近藤久氏が再びウルトラマンを演じています。
『ウルトラマン』は海外輸出のためにMEトラックとセリフを分けた形で制作され、ウルトラマンの掛け声もおそらくこのセリフオンリーのテープから抜き取られる形でライブラリ化されたと思われます。
『ウルトラセブン』では掛け声もモロボシ・ダン役である森次晃嗣が担当したためか、『ウルトラマン』のようなライブラリ化は当初行われていなかったようです。
ウルトラマン同様オールアフレコだったため、おそらく技術的には可能だったと思われます。
のちの作品では『ウルトラセブン』制作当時の掛け声が利用されていますが、これは本編から抜き出したものとの説もあるのでなんとも結論が出しづらいですね。
セブンの声が効果音のように使える形でライブラリ化されていなかったと考えられる理由には『ウルトラファイト』新撮影(アトラク)編の音声があります。
『ウルトラファイト』は本編のフィルムを転用し、ウルトラマン・ウルトラセブンと怪獣たちの戦いをまとめた抜き焼き(ライブ)編と、前述のアトラク編からなります。
アトラク編はウルトラセブンと怪獣たちが造成地などでしばきあったり小芝居を繰り広げる(アトラク編の由来はこの巨大感のない映像が怪獣ショーのアトラクションのようだったから)のですが、このウルトラセブンの声がウルトラマンの流用でした。
ライフ編ではセブンの声が普通に使用されていたので、ウルトラセブンの声が使えないという状況ではなかったと思われます。
本編の抜き焼きと新撮映像への転用で契約上の扱いが代わり、使用可否が異なっていた可能性も含め、とにかくアトラク編ではウルトラセブンの声を使わず、ウルトラマンの声をライブラリ化して使用する形が取られたのです。
その後、帰ってきたウルトラマンで再び「ウルトラマン」が主役に座ったことでライブラリが繰り返し使用されるようになりました。
やはり原点たる初代の声と言うことで、印象深い「音声」です。
ウルトラシリーズで言えば、『ウルトラマンタロウ』のストリウム光線発射時の「ストリウム光線!」の声も印象深い物があります。
それまでも帰ってきたウルトラマンのウルトラハリケーンやウルトラマンAのウルトラギロチン等、必殺技名を叫ぶ場面は幾つかありましたが、毎週のように繰り出される「決め技」にセリフがついたのはこれが初の事例です。
筆者は幼少期にレンタルビデオ屋さんで4話分収録されたビデオを借りてきて、その日のうちに一気に見ていました。
今やレンタルビデオの文化も廃れてしまいましたが、そんな見方をしていればヒーローの声が印象に残るのも当然という気がします。
いつか、ウルトラヒーローボイス集も発売されたらいいなぁ……と個人的に思っています。
音があなたを思い出の世界へ連れて行ってくれる……はず
特撮に限らず、様々な映像作品に使用された東宝や円谷プロ制作の効果音たちが、手元にやって来る日はいつになるのでしょうか。
すでに効果音集という先例はいくつかありますが、効果音で筆者を泣かせてくれたスタッフたちの肝いり選集ともなれば期待感は膨らんで当然といえます。
2019年9月、初報から二年半が経った現在でも発売日は未定となっていますが、個人的にはいつになってもいいので納得のいく出来で素晴らしい効果音たちをまとめ上げてほしいと思っています。
発売日が判明し次第、こちらにさらなる情報をまとめられればと思っています。
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